琥珀色の冷えた液体を流し込む。これでもう幾度目か
いつもは綺麗にまとめた金色の髪をほぐし
牙紋は一人、自室のベッドに寝そべり酒を飲んでいた

──こういう時考えるのは彼の人のこと

手を伸ばせば届く距離にいるのに、心は永遠に届く事はない
「いっそ早くあいつがあの人を捕まえてくれりゃいいのに・・・」
心にもないことを呟いて空いたグラスに酒をつごうとしてはたと気がつく

いつの間にかいちるが部屋の入り口にいた
「え・・・あ・・」

聞かれたか・・・・?
気にしないふりをして体を起こす、が内心は激しく動揺していた


「勝手に入ってすまない、お前今日の資料机においていったろう。早朝使うから持ってきた。ノックをしたんだが・・・」

ああ、この様子なら大丈夫だ

胸を撫で下ろしなんでもない顔をして書類を受け取リ中身を確認していると
「さっきのこと・・そのなんだ。恋愛の相談でもされたのか?」
思いがけない言葉が降ってきた

ああ・・そうだ・・いちるはこういう奴だった。
ふっと強張ってた口元を緩めて改めていちるの顔を見上げる
「まぁそんなところだ」
こいつはそういう奴だ。人のことには敏感な癖に自分に降りかかってる物には気付きもしない
「恋愛を戦場へ持っていくと大事になるからな。大変だろうがそういうのも上官の役目だ、うまくまとめてやれよ、寅桐」

本当に・・・容赦のない・・・

「それじゃあ、書類は確かに渡したぞ。おやすみ、また明日な」
「・・ああ・・おやすみ辰波。」
いつものように挨拶を交わして背を向けたいちるの見やりながら
そのうなじに噛み付きたい衝動に駆られた

落ち着け・・壊してどうする・・・

気を逸らすためにグラスをとろうとして手が滑る

カシャァァァン


「寅桐!?」
上等なクリスタルで作られたグラスは床に砕け散りきらきらとその残骸を晒していた
「グラスを落としただけだ、気にするな」
今戻られたら困る。身に宿った火はそんな簡単に消せる物ではないのだ
帰れと促すが、いちるがグラスのかけらを拾い集め始めるのが先だった

「おい危ないぞ」
「お前寝巻きではだしだろう。そっちの方が危な・・・つっ」
急に顔をしかめたいちるの指の先に小さなガラスの破片が刺さっていた

ぷくり、と血の筋が現れ流れる
「しまったな・・絆創膏をくれないか?」
少し罰の悪そうな顔でこちらを見上げるいちるに牙紋の中で何かがはじけていた

鉄の味が甘い蜜のようだった
気がついた時にはいちるに指先を口に含んでいた。
湧き出す血と指にゆっくりと舌を絡めて舐めとる。
わずかな体温を感じる指先の感触を心地よく感じながら牙紋はいちるを味わっていた。

多分それは一瞬の間の事だったのだろう
「寅桐・・もう大丈夫だから・・」
てれたように呟くいちるの声に我に帰る

俺は・・なにをしている?
急いで身を離すと手早く絆創膏を出し指に巻く
「あとはやっておくから戻れ。すまなかったな辰波」
「いや、気にしないでいいさ。おやすみ」
せかす様に追い立てるといちるはいつものように背を向けて去っていく
扉が閉められ気配が遠ざかるのをキリリとした胸の痛みに感じながら
割れたガラスもそのままにベッドに身を沈ませ目を閉じた


まだ駄目だ・・まだ・・・・・あいつがいる限り・・影は・・見せない

十二星座・干支

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